暑い環境*で、激しい運動や肉体労働をしていると多量の発汗により、急速に水分と塩分(塩化ナトリウムNaCl)が失われます。熱中症の予防には、水分を取るだけでなくNaClもとることが重要であることは十分周知されてきています。ですが、実際にはきちんと水分とNaClをとっている“つもり”でも、命に関わる事例も発生しています。問題となるのはNaCl量です。
発汗が激しいと脱水と同時にNaClの喪失が起こります。そのような状況では当然水分を取ります。水のみの摂取やNaCl濃度が足りない液体の摂取を継続すると、血液中のNaCl濃度が低下し始めます。急速なNaCl濃度の低下は人体にとって危険なので、腎臓は脱水があるにも関わらず、NaCl濃度が低い尿(低張尿)を出すことでNaCl濃度の低下を防ごうとします。せっかく摂った水分が尿として排出され、脱水が更に進行します。同じように水分摂取を続けると、脱水のさらなる進行と血液中のNaCl濃度のさらなる低下をもたらします。最終的に臓器に十分な血液が廻らず循環不全に至ります。さらに、NaCl濃度が急速に低下することで細胞が水を吸収して腫れます。脳が最も脆弱で、脳神経細胞自体の障害と脳圧が亢進による脳幹の障害が起こります。せっかく水分を摂っているのに、命に関わることになります。
一方、水分と同時に適切な量のNaClを摂取していれば、血液中のNaCl濃度は保たれ、尿量も減少して問題となる脱水は発生しません。
血液中のNaClの濃度は約0.9%(1リットルに9gのNaCl)です。NaCl不足を防ぐためには、0.3%の塩化ナトリウムを含む液体を飲むのが良いとされています(1リットルに3gの塩化ナトリウム)。酷暑下で汗を多量にかくことが予測される場合にお勧めです。ただし、普段から0.3%の食塩水を飲むのは塩分の摂りすぎになりますし、心臓や腎臓が悪い場合にも注意が必要になります。
*暑いかどうかは、①湿度、 ②日射・輻射(ふくしゃ)など周辺の熱環境、 ③気温 の3つを取り入れた暑さ指数(WBGT(湿球黒球温度):Wet Bulb Globe Temperature)という指標で判断