図1に健保連の「生活習慣病年齢階層別にみた生活習慣関連疾患の有病者数(年間平均)」を示します*1。年齢とともに生活習慣病の罹患数が増加し、特に35歳から急激に増加します。実際に産業医として健診結果を見ていても、20代と比較して40代では有所見が圧倒的に多いです。健康診断を受ける人の多くは、持病がなく健康診断以外では医療との接点がありません。ですから、健診での有所見を契機として、早期に健康状態の問題点を把握したり、疾患の治療を開始するのが大切です。
しかし、生活習慣病の早期発見の点で健康診断には大きな弱点があります。健康診断受診にあたり、「10時間以上の絶食」、「午後9時以降の絶食」などを求められます。内視鏡検査や胃バリウム造影、腹部超音波検査を同時にするので当然のことです。しかし、代表的な生活習慣病である2型糖尿病も、正常の状態から徐々に血糖が上昇して、耐糖能異常の状態を経てから糖尿病になります。当然、血糖が上昇するのは食後なので、血糖を下げる能力に問題がある場合(インスリン分泌低下、インスリン抵抗性)、食後血糖から血糖の上昇が始まります。しかし、耐糖能異常の状態では、空腹時の血糖は正常範囲内であることもあります。健診での長時間の絶食後の採血では、食度の高血糖を捉えることはできません。
多くの健診では過去100日の血糖の平均を反映するHbA1c も用いられます。基準値は6.2%以下です。例えば、今年の健診で血糖コントロールが昨年より悪化し、空腹時血糖100 mg/dlで変わらずHbA1cが5.5%から6.0%に上昇したと仮定します。この場合、平均血糖が昨年の6.0÷5.5×100%=109.1%になります。非常に単純化して、食直後から2時間まで血糖が上昇し昨年は110 mg/dlに上昇したとします。今年も食後2時間上昇すると仮定すると血糖は食後の血糖は147 mg/dlになります(図2)。空腹時血糖、HbA1cとも基準値であっても耐糖能異常になっている可能性があることが分かります*2。また、脂質異常症において食後中性脂肪が高い食後高脂血症が虚血性心疾患との関連で注目されています。
健康診断以外に医療との接点のない人ほど、健診で既に静かに始まっている異常を見つけることの重要性が高いです。健診を食後に行うのは現実的ではありませんので、気になる方は食後採血を受けることをお勧めします。
*1 実数を示していて年齢層ごとの正確な有病率を示すものではない。60歳以上の罹患者数少ない、60歳以上では健康保険組合加入者の母数が少ないため。
*2 耐糖能異常の定義は、空腹時の血糖値が110~125mg/dl、もしくは経口ブドウ糖負荷試験(75gOGTT)を実施後2時間経過した後の血糖値が140~199 mg/dl。