魚料理食後のアレルギー症状を訴え来院し、アニサキス抗体陽性であった患者さんが増えています。アニサキスというと、魚介類の摂取後に胃痛を訴えた患者さんの胃壁にアニサキスが穿入しているアニサキス症を思い浮かべますが、これはアニサキスアレルギーになります。ここでは、アニサキス症とアニサキスアレルギーの違いを説明します。
アニサキスは、アニサキス亜科幼虫の総称です。アニサキス症を起こすのは、全長2−3cmの第3期幼虫(時に第4期幼虫)です。アニサキスは、海水中で孵化し、オキアミに食べられ第3期幼虫となります。これを海産魚やイカが食べると第3期幼虫のままですが、海洋哺乳類(終宿主)が食べると、体内で成虫となります。
胃アニサキス症では、魚介類の生食後数時間して、激しい上腹部痛,悪心,嘔吐をもって発症し、大半がこの症状を呈します(劇症型胃アニサキス症)。健診などの内視鏡検査で、胃粘膜に穿入する虫体が見つかるだけの無症候例もあります(緩和型胃アニサキス症)。腸に穿入すると腸アニサキス症になり、腹痛,悪心,嘔吐などの症状が見られ、時に腸閉塞や腸穿孔を併発します。アニサキス症は、世界中で報告されていますが、刺身や寿司など海産魚介類の生食が多い日本での発症が多いです。アニサキスの寄生した海産魚介類を生食し、生きたアニサキスが摂取され、ヒトの胃や腸から組織に侵入した時にアニサキス症が起きます。アニサキスは、60℃1分の加熱、−20℃24時間以上の冷凍で死滅します。食酢、塩、醤油、わさびは無効です。
魚介類生食後の蕁麻疹を主症状とするアレルギー症状です。血圧降下や呼吸不全,意識消失などのアナフィラキシー症状を呈した症例も報告されています。原因となるアニサキス抗原は複数ありますが、加熱によっても抗原性を失わないアニサキス抗原もあります。そのような抗原に対して感作された(アレルギー反応を起こす体質になること)場合は、加熱した魚介類を食べてもアレルギー症状が出ることになります。
胃アニサキス症の内視鏡所見で、アニサキス虫体周囲の粘膜が数cmに渡り膨隆しているのを見ることがあります。穿入した虫体に対する物理的反応だけでなく、すでに有するアニサキス抗体を介する局所のアレルギー反応も関与していると考えられます。緩和型胃アニサキス症の存在も考えますと、魚介類の生食に伴い多くの人で、無症状のままアニサキスによる感作が起こっている可能性があると思われます。アニサキス症、アニサキスアレルギーの予防のためには、アニサキス抗原に感作されるのを避けるのが重要です。魚介類の生食にあたっては、子供の頃からの注意が必要になります。