健康の維持には、適切な運動が必要になりますが、適切な運動強度が必要です。運動強度が弱すぎると、十分な効果が得られません。逆に、運動強度が強すぎると、体に負荷がかかり「きつい」ので継続困難で、突然死のリスクが増加する問題が生じます。
運動強度が強い状態と言えばスポーツですが、スポーツをしている時の突然死は、スポーツをしていない時と比較して高いとされています。東京マラソンには2007年から2018年で42.3万人が参加しています。そのうち11名が走行中に心肺停止を起こしています*1。東京マラソンでのAED他の体制が整っているため、全員が救命されています。
マラソンの走行時間が4時間と仮定すると、100万人・時間あたりの心肺停止発生数は6.5回になります(表)。一方、愛知万博には約2200万人が訪れ5名が心肺停止を起こしています*2。そのうち4名がAEDで救命されています。訪れた人が6時間滞在したと仮定すると100万 人・時間あたりの心肺停止発生数は0.038回になります(表)。東京マラソンの参加中の人は、愛知万博を訪れた(運動してない)人と比較して、約170倍心肺停止のリスクが高かったことになります。年齢分布や疾患背景も同じではありませんので単純比較は難しいですが、運動強度が強いと突然死のリスクが増すのは間違いなさそうです。
運動の効果と安全性を確保するためには、どの程度の運動強度が適切でしょうか。糖尿病の運動療法では、「中強度」の運動が推奨されています。この中強度の運動強度は、運動による酸素摂取量が、各個人の最も強い運動時における酸素摂取量(VO2max)の50%前後になる運動強度のことです。酸素摂取量を測定するのは容易ではありません。そのため、年齢や安静時心拍数から運動強度を算出するカルボーネン法(Karvonen Formula)が使われます*3。[最大心拍数(220-年齢)-安静時心拍数]×(運動強度(%)÷100)+安静時心拍数で計算します。50%の運動強度を得られる心拍数は、[最大心拍数(220-年齢)+安静時心拍数] ÷2、すなわち最大心拍数と安静時心拍数の平均値で計算できます。例えば50歳で安静時心拍数が70/分の場合、120/分が50%の運動強度を得られる心拍数となります。
運動療法の目的には、脂肪の燃焼と筋肉量の維持があります。上記のような有酸素運動は脂肪の燃焼に有効です。筋肉量の維持には、適切な蛋白質を摂取しながらの筋肉トレーニングも必要です。
表
参加者数(万人) | 滞在(運動)時間 | 心肺停止発生数 | 心肺停止発生数 / 人・時間 |
|
---|---|---|---|---|
東京マラソン | 42.3 | 4 | 11 | 6.5x10-6 |
愛知万博 | 2200 | 6 | 5 | 3.8x10-8 |
*1 東京マラソン財団
https://www.marathon.tokyo/about/medical/medical_criticalcare/index.html
*2 三田村邦彦 我が国におけるAEDの実態・効果・展望 心電図 32,391-399,2012
*3 不整脈やβ遮断薬など心拍を抑制する薬の内服の場合には、適用不能