血圧の値の単位はmmHgです。”mm”は長さの単位、Hgは水銀の元素記号です。今では水銀血圧計を使用するのは稀になりましたが、もともとの原理としては、水銀柱を何mm押し上げるかで血圧を評価します。水銀の比重は13.6(g/cm3)と水の比重の13.6倍になります。血液の比重が約1.05(g/cm3)ですので、血圧が100mmHgということは、血液を1360/1.05=1300mm=1.3m押し上げる圧力であることになります。血圧が10mmHg上昇することは、血液を13㎝上昇させる分の圧力が増えることになります。
睡眠時無呼吸症候群では、CPAP(シーパップ:持続陽圧呼吸療法)を用いることがあります。CPAPとは機械で圧力をかけた空気を鼻から気道(空気の通り道)に送り込み、気道を広げて睡眠中の無呼吸を防止する治療法です。CPAPでは10cmH2O程度の圧力が使われることが多いです(設定では4.0~20.0cmH2O)。
ですから、血圧の10mmHgの変化は13.6 cmH2Oに相当すると考えると、それなりに大きい変化であると分かります。
一部の手術(ロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘除術など)は、頭を下げる頭底位で行われます。頭が相対的に30㎝低くなると、頭蓋内や眼球の圧力が30 cmH2O上昇することになります。これは300/13.6=22mmHg上昇に相当します。頭蓋内疾患の既往や緑内障を有する患者さんは、頭低位を持続すると頭蓋内圧や眼圧上昇をまねき症状悪化のリスクがあるため、注意が必要とされています。ヨガなどで長時間にわたり頭が低い姿勢を取る際にも注意が必要です。頭低位では組織全体の圧力の上昇ではありますが、22mmHgの上昇が重大な影響を持つことになります。
血圧コントロールの目的には、動脈効果の進展を抑制することと、瞬間的な高血圧による脳出血、クモ膜下出血などの発生を予防することです。以上の通り高々10-20mmHgの圧力の変化も意味のあるものですので、血圧のコントロールは大変重要です。