ヒトは、1秒間に50回から20000回の範囲(50Hz−20000Hz)の空気の振動を音として知覚します。空気の振動が外耳道を通じて入ると鼓膜が振動し、耳小骨を介して内耳へ伝えられます。振動は内耳に達すると、内耳のリンパ液の波動に変換され、内耳の蝸牛にある有毛細胞で電気信号に変換され、聴神経を通じて脳に伝わり初めて音として知覚されます。
大きな音に曝されていると、音の強さと時間に比例して、有毛細胞の聴毛が障害を受けます。難聴には伝音難聴と感音難聴と混合性難聴がありますが、感音難聴になります。本来騒音には特定の周波数はありませんが、騒音の種類に関係なく、内耳の蝸牛の構造的特徴により、高音域の4000Hzに対応する部位の有毛細胞から傷害が始まります。オージオグラムで4000Hzを中心としたV字形の切れ込みを示しc5ディップと呼ばれます。
健康診断における聴力検査では、通常1000Hz(低音域)30dBと4000Hz(高音域)40dBの音を聴取できるかをチェックします。様々な事業所での健康診断の結果を見ていると、建設関係、運送関係などの事業所で、1000Hzの聴力は保たれ、4000Hzの聴力が低下している例をみます。自覚症状がない場合が多いですが、この場合はc5ディップであり騒音性難聴である可能性があります。経年的にデータが悪化している場合には、現在も聴力低下の原因の騒音が存在することを意味します。適切な防音保護具の仕様や作業環境の改善、耳鼻咽喉科受診が必要となります。
職場だけでなく、日常生活においてもヘッドホン、イヤホンの使用に際しては音量に注意が必要です。特にうるさい環境でのイヤホンの使用については、イアホン難聴として注意喚起されています*。また、コロナ禍においては、至るところで換気のために窓が開けられています。そのため外部の騒音の影響を受けやすくなっています。特に要注意なのが地下鉄で、一部の路線では、100dBを超えます。ちなみに、WHOが定める1日あたりの音圧レベルの許容基準では100dBの1日あたりの許容基準は15分です*。110dBの1日あたりの許容基準は28秒です*。