高尿酸血症は、血清尿酸値が7.0mg/dlを超えるものと定義されます。血液中(37℃、pH7.4)では尿酸は尿酸イオンの形で存在します。尿酸イオンとナトリウムイオンが結合してできる尿酸一ナトリウム(Monosodium Urate: MSU)の溶解度は、37℃、pH7.4での条件では尿酸で6.8mg/dlです。MSUの溶解度は低温で低下し、結晶化しやすくなります。そのため、血清尿酸値が高い場合、体温の低い末梢の血管外でMSUの結晶が生じやすくなります。生じたMSU結晶に対する炎症反応が痛風発作、痛風関節炎です。痛風発作の好発部位は、末梢で、歩行で酷使する親指の関節(母趾中足趾節関節MTP関節)が70%を占めます。腎臓においてもMSUの結晶が生じて、腎障害、腎結石、尿路結石の原因となることがあります。悪性腫瘍などで大量の細胞が崩壊する時には、MSUではなく尿酸の結晶が尿細管内に生じて腎障害を起こすことがあります。
高尿酸血症は、腎機能障害だけでなく、脳卒中、虚血性心疾患、心不全と心血管疾患の発症や進展との関連も知られています。血症尿酸値が基準値内でも、尿酸値の上昇に合わせてこれらの疾患が増えるので、MSU結晶の生成が原因ではなさそうです。尿酸を合成するキサンチン酸化還元酵素(xanthine oxidoreductase; XOR)により産生される活性酸素が関係するとされます。XORは、尿酸を合成する大切な酵素で、ヒポキサンチンからキサンチン、キサンチンから尿酸の反応を触媒します*1。肝臓、腎臓、腸管、乳腺、血管内皮細胞での存在が確認されています。XORにより産生される活性酸素は、肝臓、腎臓、腸管、乳腺で病原体にたいする防御作用を担っていますが、逆に働くと組織を障害することになります*2。高尿酸血症、痛風に適応のXOR阻害剤フェブキソスタットが、腎機能正常の無症候性高尿酸血症患者での腎機能の低下、無症候性高尿酸血症患者での脳心血管疾患、腎疾患を減少させたことが報告されています。XOR阻害剤は当然血清尿酸値も下げますが、この効果は血清尿酸値の低下でなく、XOR阻害による活性酸素産生の抑制のためとされています。
尿酸の重要な特徴として、ビリルビンと並ぶ強力な抗酸化物質であることです。腎性低尿酸血症(RHUC)は、腎臓の尿細管での尿酸再吸収の先天的低下による低尿酸血症で、そのガイドライン*4では血清尿酸値が2.0㎎/dl以下です。有病率は、およそ男性0.2%、女性0.4%です。尿酸産生の低下ではないので尿酸産生に伴ってXORから活性酸素が発生しています。問題となる合併症として、尿路結石症と運動後急性腎障害(EIAKI)があります。後者は、運動時に尿酸による抗酸化作用が相対的に不足して発症するとされています。また、最近の複数の研究報告で、尿酸値が高い場合だけでなく、低い場合でも、総死亡率、心血管死亡率が上昇したとの報告もあります*5。
以上の通り、尿酸―ナトリウム(MSU)結晶、XORによる酸化ストレス、尿酸自体の抗酸化作用が相まって尿酸による病態は複雑です。ですから、異常値がある場合は、無症状でも一度受診頂くのが良いと思います。
*1 XOR(キサンチン酸化還元酵素)は、キサンチンデハイドロゲナーゼ(XDH)型とキサンチンオキシダーゼ(XO)型の2つの型をとる
*2 Xanthine oxidoreductase: One enzyme for multiple physiological tasks.
Massimo B, et al. Redox Biology. 2021;41:101882
*3 New insights into purine metabolism in metabolic diseases: role of xanthine oxidoreductase activity. Furuhashi M, et al. Am J Physiol Endocrinol Metab. 2020;319: E827–E834
*4 低尿酸血症ガイドライン https://minds.jcqhc.or.jp/docs/minds/renal-hypuricemia/renal-hypuricemia_full-text.pdf
*5 U-shaped association of uric acid to overall-cause mortality and its impact on clinical management of hyperuricemia. Crawley T, et al. Redox Biology.
2022;51:102271