新型コロナウイルス感染症COVID-19は、中国で最初に確認されてから、2年以上経過しました。多くの変異株が出現し、現在はオミクロン株の感染が主体です。オミクロン株には、4つの系統(BA.1、BA.1.1、BA.2、BA.3)があります。国内ではBA.1系統のオミクロン株が主流ですが、外国で主流になっているBA.2系統のオミクロン株に置き換わるとされています。ワクチン接種も進んでいますが、日本で承認された治療薬も増えてきました(表1)。治療薬は、3つに分類されます。1)抗ウイルス薬、2)中和抗体薬、3)抗炎症薬、です。1)は、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)がヒトの細胞で増殖するために必要な(ウイルスの)酵素を阻害します。2)は、新型コロナウイルスのヒト細胞への感染に必要なスパイク蛋白質に対するモノクローナル抗体です。抗体がウイルスに結合することによりウイルスのヒト細胞への侵入を防ぎます。3)抗炎症薬は、ウイルスに対する過剰な免疫反応を抑えることで組織障害を防ぐ薬です。3)はヒトをターゲットとする薬ですので、オミクロン株感染症でも効果の減弱はなく、オリジナル株に対してと同等の効果を持ちます。1)2)はウイルスをターゲットとする薬ですので、変異株に対して、特に変異がたくさんあるオミクロン株に対しての効果は減弱する可能性があります。
これについて重要なデータが発表されました*1 *2。オミクロン株のBA.1系統、BA.2系統に対しての、既存の中和抗体薬、抗ウイルス薬のin vitroでの効果を見たものです。中和抗体薬「ロナプリーブ」(カリシビマブ/イムデビマブ)は、BA.1系統には全く効果がなく、BA.2系統には、オリジナル株に対しての効果の63.1分の1です。中和抗体薬「ゼビュディ」(ソトロビマブ)の効果は、オリジナル株に対する効果と比較して、それぞれBA.1系統に対して13.6分の1、BA.2 系統に対して49.7分の1です。一方、抗ウイルス薬「ベクルリー」(レムデシベル)の効果は、BA.1系統に対して1.2分の1、BA.2 系統に対して2.7分の1です。抗ウイルス薬「ラゲブリオ」(モルヌピラビル)はBA.1系統に対して0.84分の1(1.3倍)、BA.2 系統に対して1.3分の1です。中和抗体薬はオミクロン株に対しての効果が減弱していて、抗ウイルスはオミクロン株に対しても十分な効果を維持していることが分かります。ウイルスの増殖に関わる蛋白質の方が、スパイク蛋白質より変異が起きにくいためと考えられます。
現在、新型コロナウイルスワクチンの3回目の接種が進行しています。このワクチンは、オリジナル株に対するものですので、変異の多いオミクロン株に対する効果の減弱があるのではと心配されていました。表2にワクチン接種歴別の新規陽性者数(4/25-5/1)が示されていますが、変異の多いオミクロン株に対しても一定の有効性が維持されていることが分かります。抗炎症薬、抗ウイルス薬の有効性は、今後も維持されると予想されます。現時点でCOVID-19に対してある程度安心できる手段が揃ったことが分かります。
*1 Efficacy of Antibodies and Antiviral Drugs against Covid-19 Omicron Variant. Takashita E, et al. N Engl J Med 2022; 386:995-998
*2 Efficacy of Antiviral Agents against the SARS-CoV-2 Omicron Subvariant BA.2. Takashita E, et al. N Engl J Med 2022; 386:1475-1477