ガッチリした体格の40代男性の健康診断の時、併存病名に非結核性抗酸菌症とありました。非結核性抗酸菌症は、典型的には痩せた中高年女性に多いイメージがあります。会社の古い埃っぽくカビ臭い車庫での作業中に、ホコリを吸い込んだことが原因のようでした。また、肺線維症治療でありましたが状態は安定した方が、突然増悪しました。コロナ禍での久しぶりの帰省時に、マスクをせずに物置の整理をしたそうです。以降、呼吸状態が一段悪化したままです。さらに、気管支喘息の既往のある方が、外国旅行で民家に宿泊時に、数十年ぶりに突然大きめの発作を起こしました。部屋が湿気ってカビ臭かったそうです。一方、春先になるとスギ花粉やヒノキ花粉による花粉症で苦しむ方が多いですが、花粉症の症状は、目、鼻、喉にとどまります。花粉症による鼻汁が刺激による喘息の増悪はありえますが、花粉自体が気管支喘息の原因にはなりません。
この違いは、吸い込む粒子の大きさの違いによります。スギやヒノキ花粉は直径30-40μm(1μm は1mmの1/1000)であり、肺には侵入しません。上述の気管支喘息の発作、肺線維症の増悪を起こした粒子、非結核性抗酸菌を含んだ粒子は肺に侵入したことになります。大気中に浮遊している粒径が10μm以下の粒子は、肺に侵入して、さらには血流にまで入り込む危険があります。特に粒径が2.5μm以下の粒子でその危険が高く、呼吸器系のほか循環器系にも悪影響を及ぼします*1。それぞれをモニターする基準として、10μmに対応したものとして、浮遊粒子状物質Suspended Particulate Matter(SPM)とParticulate Matter10 (PM10), 2,5μmに対応したものとして Particulate Matter 2.5 (PM2.5)が存在します*2。
日常生活において、10μm以下、特に2.5μm以下の粒子の吸入を避けることが、長期的な健康維持のために重要です。鼻呼吸と比較して口呼吸の方が肺の中に粒子を吸い込みやすいとされています。ホコリっぽい環境では、適切にマスクを装着して、鼻呼吸で作業をするのが望ましいと思われます。また、PM2.5が多いと想定される環境での運動も、健康障害が運動効果を上回る可能性があるので注意が必要です。
*1 EPA(米国環境保護庁)HP
*2 国立環境研究所HP