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HPV既感染者に対するHPVワクチン接種の効果

  HPVには200種類以上の型があり、少なくとも13種類が発がん性のある高リスク型です(HPV16、18、31、33、35、39、45、51、52、56、58、59、68型)。良性腫瘍である尖圭コンジローマを起こす低リスク型としてHPV6、11型があります。サーバリックスは16、18型、ガーダシルはHPV6、11、16、18型、シルガード9、ガーダシル9は、HPV6、11、16、18、31、33、45、52、58型に対するワクチンです。HPVワクチンはHPV感染を予防することで、子宮頸部上皮内腫瘍、浸潤性子宮頸がんの発生を減少させます。HPVワクチン接種後に産生される中和抗体が対応する型のHPVの細胞への感染を防ぎます。
  では、HPV既感染者に対するHPVワクチンの効果はどうでしょうか。HPV既感染者にワクチンを接種した場合、ワクチンが対応するHPV型に対して、既感染の型のHPVも含めて、問題なく中和抗体ができます。未感染のHPV型に対しては、感染予防効果を発揮します。既感染のHPV型についてですが、“ガーダシル、シルガード9の添付文書には、“接種時に感染が成立しているHPVの排除及び既に生じているHPV関連の病変の進行予防効果は期待できない”とあります。既に感染が成立している場合、周囲の体液に中和抗体があっても細胞の感染状態は影響をうけず、また既に始まっているがん化の過程も影響受けません。しかし、中和抗体がなければ感染した細胞からは新たなHPVが放出され、体液中をHPVが回ります。自身の未感染の細胞への感染、パートナーへの感染を起こします。一方、中和抗体が存在すれば、HPVが細胞外に出てもすぐ中和抗体で処理されるので、これらの感染が予防できると考えられます。これは男性の既感染者にも当てはまります。
  子宮頸部上皮内腫瘍(cervical intraepithelial neoplasia:CIN)に対する子宮頸部円錐切除術のタイミングでHPVワクチン(2価、4価)接種の、CINの再発を検討した報告があります*1。子宮頸部上皮内腫瘍は、軽度異形成(CIN1)、中等度異形成(CIN2)、高度異形成・上皮内がん(CIN3)の3種類に分類されます。この報告はいくつかの報告をまとめて解析したものです。CIN2、CIN3に対する子宮頸部円錐切除術の際に、HPVワクチンを摂取した群で接種なしの群と比較してCINの再発が低いとの報告がされています。この点でも、HPV既感染者に対してもHPVワクチン接種のメリットがありそうです。
  日本以外の多くの国でもHPVワクチンは広く使われていていて、世界的に不足が問題になっています。HPVワクチン接種回数が1回でも十分な効果を有する可能性があり、様々な研究検討がなされています*2。サーバリックス、ガーダシル、シルガード9は接種方法が規定されていますが、ガーダシル9には制限はありません。未接種の方は1回でもガーダシル9を接種するメリットがあるかも知れません。

*1 Adjuvant HPV Vaccination to Prevent Recurrent Cervical Dysplasia after Surgical Treatment: A Meta-Analysis. Di Donato V et al, Vaccines (Basel) 2021;9:410-425
*2 Review of the current public evidence on single-dose HPV vaccination 4th edition