インスリン使用の場合、持続血糖測定(Continuous Glucose Monitoring: CGM)が保険適応となっています。CGMは、1日24時間連続して血糖の変動を測定でき、当院でもCGMを使用している患者さんが多数います。従来の自己血糖測定(SMBG)とHbA1c のみと比較して、CGMでは血糖変動パターンなど多くの情報を得られるため、糖尿病の血糖管理の向上につながります。
自前のインスリン分泌がほとんどないインスリン使用中の患者さんのCGMのデータを見ていて興味深いことに気づきました。その方は健康のため毎朝食前に、関節を動かさず体感の筋肉に力を入れる運動(等尺性運動)を日常的にしています。CGMのデータを確認しますと、毎回その運動を開始した直後に血糖が300mg/dlぐらい上昇していました。運動により交感神経が刺激され、肝臓からグルコースが放出されたものと考えられます。自前のインスリン分泌がほとんど無いので、交感神経が強く刺激されたときの血糖の上昇が顕在化したものと思われます。後日運動の強さを弱めたところ、血糖の上昇は緩やかになりました。
身体活動強度の指標として、メッツ(MET: metabolic equivalent)という単位があります。身体活動毎にMETsが示されています(表)。座って安静にしている状態が1メッツ、普通歩行が3メッツに相当します。身体活動によるエネルギー消費量(kcal)は、1.2 × (メッツ-1)(kcal/kg/時)×(時間:時)×(体重:kg)で計算されます。ランニング、階段を上がる活動は15メッツですので、体重60kgだと1時間で約1000kcal消費することになります。仮に瞬間的に極めて激しい30メッツの無酸素運動をすると、1時間で約2000kcal(グルコースで500g)、1分で8.3gのグルコースを消費することになります。健常者は通常激しい運動しても危険な低血糖を起こすことはありません。肝臓からは1分で8.3gのグルコースを血中に放出する能力があるものと考えられます。上記の糖尿病の患者さんで血糖が300mg/dl上昇したということは、この患者さんの肝臓は数分で血中のグルコース9g増加させる能力があることを示し、矛盾しない値だと思われます。このように、交感神経の刺激は、血糖の上昇圧力になることが分かります。他の糖尿病患者さんでも、睡眠不足と睡眠の質の悪化時、夜間勤務になったり、仕事プライベートで心労を抱えたり、過労があったりすると、HbA1cで見ても血糖コントロールが困難になることをしばしば経験します。血糖のコントロールには、食事療法、運動療法に加えて、自律神経(交感神経、副交感神経)のバランスを維持することも重要だと思われます。
表
3.0 | 自転車エルゴメーター:50ワット、とても軽い活動、ウェイトトレーニング(軽・中等度)、ボーリング、フリスビー、バレーボール |
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3.5 | 体操(家で。軽・中等度)、ゴルフ(カートを使って。待ち時間を除く。) |
3.8 | やや速歩(平地、やや速めに=94m/分) |
4.0 | 速歩(平地、95~100m/分程度)、水中運動、水中で柔軟体操、卓球 |
4.5 | バドミントン、ゴルフ(クラブを自分で運ぶ。待ち時間を除く。) |
4.8 | バレエ、モダン、ツイスト、ジャズ、タップ |
5.0 | ソフトボールまたは野球、かなり速歩(平地、速く=107m/分) |
5.5 | 自転車エルゴメーター:100ワット、軽い活動 |
6.0 | ウェイトトレーニング(高強度)、ジョギングと歩行の組み合わせ(ジョギングは10分以下)、バスケットボール、スイミング:ゆっくりしたストローク |
6.5 | エアロビクス |
7.0 | ジョギング、サッカー、テニス、水泳:背泳、スケート、スキー |
7.5 | 山を登る:約1~2kgの荷物を背負って |
8.0 | サイクリング(約20km/時)、ランニング:134m/分、水泳:クロール、ゆっくり(約45m/分) |
10.0 | ランニング:161m/分、柔道、空手、キックボクシング、テコンドー、ラグビー、水泳:平泳ぎ |
11.0 | 水泳:バタフライ、水泳:クロール、速い(約70m/分)、活発な活動 |
15.0 | ランニング:階段を上がる |