脂質異常症や高血圧症や糖尿病などの慢性疾患に対して初めての処方する時に、患者さんから“一旦始めたら一生飲み続けるのでしょうか”としばしば質問されます。人は生まれてから、幼年期(0−4歳)、少年期(5−14歳)、青年期(15−24歳)、壮年期(25−44歳)、中年期(45−64歳)、高年期(65歳以上)*と年齢を重ねて変化していきます。ある時までは成長と呼ばれますが、成人し成熟期を迎えると、そこから先は老化と呼ばれます。人によっては速さは異なりますが、老化のタイマーは着実に動いています。
臓器の中、臓器の間を走る血管も動脈硬化の形で老化します。高血圧、脂質異常症、糖尿病などの疾病に罹患していると、動脈硬化が健常者よりも速く進みます。ただ、仮に動脈硬化が進行していても、最終的に血管が破れたり(脳出血、動脈解離、大動脈破裂、くも膜下出血など)、血管が詰まったり(脳梗塞、心筋梗塞、閉塞性動脈硬化症など)するまでは無症状です。死を経験した人はいませんので、今まで生きてきたことを以て、今までの生活習慣などが正しかったと判断しがちです(生存者バイアス)。さらに、脂質異常症の薬や高血圧の薬も糖尿病の薬も服用をやめたらすぐに脂質、血圧、血糖の値も元に戻り、脂質異常症、高血圧症、糖尿病自体を治癒させる訳ではありません。薬の服用が必要な体になってしまうという抵抗感も有るかもしれません。そのため、“いったん始めたら一生飲み続けるのでしょうか”という質問になります。
しかし、薬剤服用期間中は脂質、血圧、血糖の値が適切に維持されることで、老化(動脈硬化)のタイマーが遅くなり、血管の破綻に至るまで時間稼ぎをすることはできます。薬剤は病気を治癒させることは出来ませんが、動脈硬化の進んだ血管でも薬でなんとかメンテナンスすることで、高齢まで上記の疾病を起こさず健康寿命を長くできる可能性が高くなります。この点で薬剤の服用は有益です。