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静かな熱中症

  熱中症というと、炎天下での激しい運動で起こるイメージが強いですが、家庭で発生する高齢者の熱中症が増えていて、高齢者では住宅での発生が半数を超えています。昨年夏も暑かったですが、1人の集合住宅に住んでいる患者さんから熱中症について生々しいお話をお聞きしました。その方はご自分の住んでいる階の世帯に声かけをするような立場にいます。ほとんどは高齢男性一人暮らし世帯です。昨年夏20数世帯のうち8世帯で熱中症による死亡が発生したとのことでした。声をかける時にはエアコンをつけるのですが、普段は使用しないかすぐに消してしまうかで、結果的に就寝中に熱中症になる“静かな熱中症”がほとんどとのことでした。
  熱中症とは暑熱が原因となって発症する「皮膚の障害などを除外した暑熱障害(heat disorders)」の総称です。熱失神,熱けいれん,熱疲労および熱射病に分類されます。体内で発生する熱と体外から受け取る熱量の合計が体外に放出する熱量より多い状態が持続することが原因となり、体の調節機能が破綻することで発生します。熱中症が発生しやすい環境因子としては、高気温、高湿度、低風速、日射などがあります。そのうち、湿度、日射・輻射、気温の3つを取り入れた指標が、WBGT(Wet-bulb globe temperature,湿球黒球温度)“暑さ指数”です。WBGT(℃)によって「危険」(31℃以上), 「厳重警戒」(28℃以上 31℃未満),「警戒」(25℃以上 28℃未満),「注意」(25℃未満)の 4 段階 の「温度基準域」に分けられます。図は日射・輻射の無い環境でのWBGTです。
  人間は安静時でも熱産生します。基礎代謝が1200kcal、体重60kgの人は、睡眠時1時間あたり約50kcalの熱を産生します。放熱が無ければ、体温を1時間あたり0.83度、6️時間で5️度上昇させる熱量です。放熱は、体表面に接触している物質に対する伝導(conduction)、体表面からの放射(radiation)、汗の蒸発(evaporation)によります。伝導のうち体表面の空気との熱のやり取りは対流(convection)と呼ばれます。水が体表面から蒸発する際には、水1️gあたり0.58kcalの熱を奪います。汗をかかなくても、皮膚と肺から1日あたり600−700mlの水分が蒸発して1時間あたり16−19kcalの熱を放出しています。気温が上昇すれば汗の蒸発による放熱の割合が増えますが、湿度が高ければ十分な放熱ができません。気温が30℃の時、湿度が45%では「注意」ですが、50%で「警戒」、75%で「厳重警戒」になります(図)。体重60kgの人が、1時間あたり50g汗の蒸発が減ると体温を1時間あたり0.48度、6時間で2.9度の上昇させる要因になります。高齢者は発汗能力自体が低い上に、発汗の気温にたいする閾値が高いので、体内に熱を溜め込みやすい傾向にあります。図は、室内で輻射熱が無い前提のWBGTを示していますが、最近の夏の酷暑においては、夜間になっても建物の壁に熱がこもり、壁からの輻射熱を受けている可能性もあります。
  寝入りばなは自覚的に問題なくても、気づいたときには体が動かず助けも呼べないような、“静かな熱中症”には注意が必要です。眠前の十分な飲水、朝までの連続したエアコンの使用が欠かせません。